9日のこと。月刊誌『ウォロ』の読者会に参加した。ゲストは「ゆきさん」こと大熊由紀子さん。元朝日新聞論説委員で主に医療・福祉分野で精力的な活動を続けるジャーナリスト。『ウォロ』の連載原稿は、とても優しい「ですます調」の物語で、現場で頑張っている人を取り上げてエールを送る。
ゆきさんは、ものすごく忙しいので、今でもそうだが、僕が編集担当をしていた頃も、締切をとっくにすぎて出稿間際になってからの攻防となる。電話をかけると「大熊でございます。いつもご迷惑ばかりをおかけして申し訳ございません」とご挨拶。「締切を過ぎた原稿が3つほどございまして順番に仕上げておりますところです」と続く。
だいたい毎月同じようなパターンだったのだけど、出稿日の午前中のメールがこうだ。「品川駅へ向かうタクシーの中なのですが、新幹線に乗るまでには原稿をお送りしますので」。それから数分後にメールで原稿が来る。「のぞみ○号で京都へ向かいます。途中、○時○分に名古屋駅に停車します」。
今ではもう、いつでもどこでもメールを受信出来るのかもしれないが、当時は、高速移動中はメール受信はできなかった。品川から名古屋へのぞみが走る間に、こちらは受け取った原稿に校正をかけ、デザイナーにメールし、レイアウトに流してもらい、そのゲラに校正をいれ、PDF化してゆきさんにメールで戻す。
ゆきさんは、名古屋駅停車中にゲラを受信。そこからさらに京都への移動中にチェックして、京都で最終の修正を返信。それを受け取り、直しを入れて、印刷会社へ出稿。
これ以上の綱渡りはないのだが、原稿の完成度は高く不思議と連載が落ちるかもといった心配はなかった。
さて、そんなゆきさん。実際にお会いしても物静かで優しく、とても丁寧な言葉をニコニコと話される。ふんわりとした印象だ。
だがしかし、その外的な柔らかさに騙されてはいけない。
記事に取り上げる人の基準は?の問いに「やさしいだけの人は書きません。今ある制度を破壊してその先にある理想が見えてる方を書きます。だから私が書く方は、今ある制度を破っている方」。だからきっと敵も多いだろう。書く上で配慮すべきこともものすごく多いはずだ。しかし、出来上がる記事はそういう難しさを微塵も感じさせない軽やかで素敵な文章。
振り返って自分はどうだろう。考えさせられることがたくさんあった。
甘くて柔らかい大福餅を頬張っているつもりが、いつの間にか腹の中にずしりと重たい石を飲み込んでいた。そんな3時間だった。
■ゆきさんの「ゆき.えにしネット」
http://www.yuki-enishi.com/
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